イン・ザ・ペニー・アーケード

短編集。
三部構成になっており、第一部は 天才人形師を主人公とした中編、第二部はそれぞれ女性を主人公とした短篇3篇、第三部は 幻想的な短篇3篇で構成されています。




アウグスト・エッシェンブルク


仕草のひとつひとつが細やかで美しい、幻想的なまでに美しい女性の自動人形と、ぎこちない動きでなまめかしい肌をあらわにする自動人形の対比が印象深い。


私が特に好きなのは、「複雑に動く」玩具にこだわり続けた少年が、隣の市の博物館の片隅で「動く絵」と出会う場面です。
この場面を読んでいると、何故だかムットーニ*1のからくり箱を見たくなる。




橇滑りパーティー


室内の遊戯室で行われる、いかにもアメリカ青春映画って雰囲気のパーティーには混じらず、夜空や降り積もる雪や木々を見たり、男の子に混じって橇滑りしたり。そんなの女の子が主人公。
友達だと思っていた男の子の告白に動揺したり、遊戯室の気取った女の子たち背を向けて雪の中で物思いに耽ったり。思春期の女の子(しかも文系)の描写が秀逸。
ミルハウザーが書く青春小説*2




雪人間


ある晴れた日に、熱狂的に雪像を作る子どもたちの話。
細部まで精巧に作られた雪人間たちの出現によって、精巧な雪像造りがエスカレートしてゆき、街全体が精巧な雪細工に覆われていく。
次第に雪が溶けて、人々の雪人間に対する情熱も消え、白い世界の下から色のある世界が現れる。
雪が溶けて、気が付いたら春になっている。ただそれだけの描写が美しく印象深い作品です。




東方の国


かつてどこかに存在したようで、どこにも存在しない幻想的な「東方の国」の、散文詩的な描写が美しい物語。
タイトルや表現の端々から、うすく霧がかかっている、極彩色に彩られているような、昔の中国の宮廷や中国の神話の世界を想像します。
この想像上の「東方の国」には、拷問だとか戦争だとかの血生臭いものは存在しません。描写されるのは、緩慢な時の流れや、平穏だけど退屈な暮らし、焦燥、渇望など、満ち足りている生活の中で感じる不安のようなものばかりです。


物語の上で何が起こる訳でもなく、散文詩的な描写が美しい作品ですが、それがすごく良いと思います。
この手のミルハウザーの作品*3、好きです。

*1:http://www.muttoni.net/ 参照。

*2:・・・とも言いきれないような、不思議な印象を受ける作品。

*3:三つの小さな王国の「王妃、小人、土牢」とか。