三つの小さな王国

三つの小さな王国 (白水uブックス―海外小説の誘惑)

三つの小さな王国 (白水uブックス―海外小説の誘惑)


J・フランクリン・ペインの小さな王国

1920年代のアメリカが舞台の、アニメーション映画製作者の話。
1枚1枚、紙に絵を描き、フィルムに焼き、上映するアニメーション映画の描写が緻密で幻想的な作品。



時代遅れのものとなり淘汰される技術、滅びゆく芸術作品って、いかにもミルハウザーらしい主題だなと思います。


「アウグスト・エッシェンブルグ」が好きだという人なら、この作品はかなり好きになるはず。


王妃、小人、土牢


川の向こう岸の険しい崖の上にある城を舞台とした散文詩的な作品。


短い章で構成されていて、

  1. 「昔話」として語られる、王、王妃、辺境伯、小人の物語。
  2. 「昔話」の語り手、聞き手となる人々(=街の人々)の生活の描写。
  3. 「昔話」の舞台となった国(東欧を思わせる雰囲気)の描写。

等が、幻想的で印象深い作品です。


作中で「昔話」として語られる話は、街で生活している私たち(=語り手、聞き手となる人達)によって紡がれ、受け継がれて行きます。
街で生活している「私たち」は、お城の内部の光景や、王妃にまつわる悲しい話をする事はできても、それらの光景を実際に見ることも知ることもできない。
城の地下深くには土牢なんて存在しないのかもしれない。昔いた美しい王妃の髪の色は、金ではなく黒いのかもしれない。
けれど、「私たち」にそれを確認することはできません。


想像する事によって、見えないものを見ようとする。「昔話」という名の物語は、語り手の好みによって、様々な結末や様々なエピソードが追加され、より想像をかきたてられる魅力的な物語として受け継がれていく。それが昔話などの「口承」文学の醍醐味だと思います。


「想像することによって、見えないものを見ようとする」ということは、多くのミルハウザー作品に共通するテーマなのかなと思った。


展覧会のカタログ


架空の画家の、架空の展覧会のカタログの形式をした小説。


「不可解な生涯を送った謎の画家」としてのエドマンド・ムーラッシュの人生は想像できるのに、肝心の「絵」がいったいどのようなものなのかが、読み終えたあとにわからなくなっていくから不思議。


受け止め方次第で、まったく違った印象の作品になるから面白いと思う。